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『愛されるデザイン』1周年イベントレポート!前田高志さんが伝える「愛されるセルフブランディング」の核心

2025年7月19日。「CREATOR SUPPORT EVENT dezaten2025『愛されるデザイン』独立クリエイター向けセルフブランディング講座」が開催されました。

登壇したのは『愛されるデザイン』著者であり、マエデ(前田デザイン室)主宰、株式会社NASU代表の前田高志さん。

会場チケットは事前に完売。当日は開始前から名刺交換や談笑でにぎわい、書籍販売もすべて売り切れる盛り上がりとなりました。

「鬼フィードバック」「勝てるデザイン」など、数々のクリエイターのバイブルとなる書籍を生み出してきた前田高志さん。「愛されるデザイン」の出版一周年を記念したワークショップイベントの様子をお届けします!

左より 株式会社NASU 代表取締役 前田高志 氏、大阪デザイン振興プラザ(ODP) インキュベーションマネージャー 板倉康裕 氏

前田高志 氏
株式会社NASU 代表取締役、デザイナー、クリエイティブディレクター

1977年、兵庫県生まれ。大阪芸術大学デザイン学科卒業後、任天堂へ入社。約15年間、広告販促用のグラフィックデザインに携わった後、2016年に独立。2018年にNASUを設立。「デザインで成す」を掲げ、企業のデザイン経営に注力。クリエイターコミュニティ「マエデ(前田デザイン室)」主宰。著者に『勝てるデザイン』『愛されるデザイン』(幻冬舎、2021年、2024年)、『鬼フィードバックデザインのチカラは“ダメ出し”で育つ』『3分でよくなるデザイン 25年の“気づき”が詰まったブラッシュアップ集』(MdN、2021年、2025年)他。「遊び心」のあるデザインが強み。

書籍『愛されるデザイン』とは
『勝てるデザイン』に続く、グラフィックデザイナー 前田高志さんが、10年以上の経験の中で培った“愛されるデザイン”を生み出すための思考法と実践ノウハウをまとめた一冊。
デザインの方向性を決める「背骨の作り方」、愛されるためのコミュニケーション術まで、実例を交えて丁寧に解説。デザイナーはもちろん、クリエイターやものづくりに関わるすべての人に役立つ内容となっています。

もしも一から、セルフブランディングをするならこうする

本イベントは自身もグラフィックデザイナーである板倉さんが、マエデで制作した雑誌『Grapheck(グラヘック)』のクラウドファンディングの講演プランを支援したご縁をきっかけに開催。多くのクリエイターに学びを提供してもらう機会にしたいと、今回のイベントが実現しました。

「実はこうしたワークショップ付きの講演をする機会は少なく、レアです」と語る前田さんのトークとともに講演がスタート。


メインセッションでは、「セルフブランディング」をテーマに、独立から約10年間で得た経験や気づきを惜しみなく語っていただきました。

セルフブランディングの重要な5つのポイントを、結論として解説しました。

セルフブランディングの結論はこれ

背骨を作る −考え方の指針を持つ−

1つ目は「背骨を作る」こと。

ブレない背骨とは「本質的な考え方の指針を作る」ことで、言葉と行動を一致させることでもあります。

前田さんは「デザインを提供したときに本当に喜んでくれる人と仕事したい。明確な軸となる背骨があり、それに基づいて行動してきたと言います。

背骨がないと自分の言動がバラバラになり、周囲に信頼されにくくなる。何を大切にして動くかを自分の中で決めておくことが、セルフブランディングの最初の一歩だと語られました。

見せられる作品を作り続ける、物量も重要

2つ目は「作品を作り続ける」こと。
実績として開示できる仕事を増やすことや、自分が心からやりたいと感じるような仕事をする。

「自分がやりたい仕事を取りにいく努力をする。作って出し続けていると、そういうデザイナーなんだ、という印象やイメージも付いてくる」と大変だったときもあると振り返りながら話されました。

10年間の中で、前田さんはクライアントワークもこなしながら、自身のコミュニティ「前田デザイン室」でも、さまざまな制作をデザインに限らず続けられてきました。

見せられる実績は9割。両立は大変でも作品を残すことが大切で、「打ち込んだ物量がスキルと専門性を高めることにもつながっている」と語られました。

セルフブランディングの究極は「語り続けること」

そして、3つ目は「語り続ける」と。
セルフブランディングの中で1つ重要な項目を絞るなら「語ること」だと話されました。

コンセプトや様々なふわっとした言葉を定義することを「テーギング」と名付けてお話を進められました。

ブランディングでもプロジェクト進行においても、この方向性がよいと言語化して伝えられることが多くの優秀なクリエイターの共通項であり、前田さん自身も意識をされていると話されました。

また、前田さんは自己紹介の際に、ご自身の幼少期から現在までの写真を順番にスライドで見せていきました。

「伝わる、とはみなさんの頭の中に繰り返しイメージを持ってもらうこと。ブランディングは、その繰り返しなんですね。写真を何枚も見て、みなさんの頭の中で僕のイメージは整ってきたと思います」と補足をされました。

会場では「なるほど」という声もあがり、伝わるとはどういうことかイメージが浮かんだ様子がうかがえました。

「SNSに限らず、良い仕事をして人とつながって語る相手を増やしていく。飲み会でも雑談でも、自分の考えを語り続けることで、この人といえばこれというイメージが定着していきます」

自由になる、正直になることの大切さ

4つ目は自由になること。
周りの目が気になってしまう、本当にやりたいことがあるなら周囲の意見は気にする必要がないこと。

「自分に正直でないと、最後までやりきれない」と前田さんは話します。

こうなりたいという願望はあっても、実際にはやらない。本当はやりたいと感じていないのか、他に原因があるのか正直になれない。正直になれないと納得感も生まれない。

前田さん自身も長年ゲーム会社で働き、デザイナーとして独立したときは単身クリエイティブ業界に飛び込まれました。

多くの人に「前田さんは言葉と行動が一致している」とよく言われる理由は、目的と道筋しか見ないから。

「やりきる意識を強く持ち、やりたいことに正直であること」だと、正直に自由になることの大切さを強調されました。

やりきると誰も真似ができないブランディングが生まれる

そして最後は、「やりきること」です。
前田さんは、自身が“実力以上に上手くやれている”と感じる理由は、「いつもやりきることを忘れず、努力を続けたおかげ」だと話します。

前田さんは、自らやりきってリスクを負うエピソードの1つとして、『愛されるデザイン』の出版イベントに100人集めるという目標を挙げられました。


「世の中の多くのリスクと責任ある仕事に対して、グラフィックデザイナーは誰か一人でも喜んでもらえれば救われる雰囲気がある。そうではなくて責任を持ってやりきりたい。100人を達成できなければ、もう辞める」という決意と覚悟を持ってイベントに臨みました。

その結果、10日余りの募集で107名が集まりイベントは大成功。
「やりきったからこそ、結果がついてくる。どんなときでも語って伝えきらなければ伝わらない」と語られました。

さまざまな事例と5つのポイントを通して、セルフブランディングのイメージが深まったところで、具体的にこの5ポイントや本質的な問題に切り込むワークショップへ入っていきます。

ワークショップ「本質ブレないシート」で、“心のマグマ”を言語化する時間

講演が終わると、いよいよイベントの後半へ。
ここからは、参加者一人ひとりが自分自身と向き合う「本質ブレないシート」に挑戦。自分の“心のマグマ”を見つけ、言葉にしていくワークに取り組みました。

「本質ブレないシート」とは?

このワークシートは、前田さんが自身のプロジェクトやクライアントワークの場でも活用している、ブランディング思考を可視化するワークツール。
シートの真ん中には「プロジェクト名」となる心のマグマが書かれた円があり、そこを中心に、周囲に配置された複数の設問へ答えていく形式になっています。

本ワークシートは「愛されるデザイン」の購入特典でダウンロードができます。

クライアントと一緒に取り組むことで、目的や目標のブレを防ぎ、認識の違いも修正できる優れもののツール。

前田さんがこのシートを開発した背景は、「方向性のズレ」を実際のプロジェクトで経験したこと。
単なる目標設定ではなく、社内・社外を問わずに同じ方向を向いて認識を揃える役割を担ってもらうために、改良しながら完成したシートです。

書き方の事例として、前田さん自身の経歴を例にした記入内容も公開されました。

スクリーンショットの手が止まらないみなさんの様子

実際に着々とシートを使って心のマグマから目標を実現していく様子に、参加者のみなさんは一斉にスライドを写真に収めていました。

「言語化 → 行動 → 検証」サイクルがブランド・プロジェクトを育てる

一度やって終わりではない、夢を叶えるまでアップデートし続ける

本質ブレないシートの魅力は、一度書いたら終わりではないところ。
ある程度行動を起こしたとき、次のステージをめざすタイミングや自分の成長を確かめるタイミングで内容を検証し、再び言語化してズレを修正できることです。

「言語化→行動→検証」のサイクルを繰り返すことで、より自分らしいブランドが磨かれていきます。アップデートし続け「生きたシート」として活用することがポイントとお話しされました。

必要なのは「心のマグマ」不満・モヤモヤの根源を見つける

前田さんは、シートに取り組む際のポイントとして「不満から書くことの重要性」も補足され、「心のマグマ」と表現しました。

なんとなくうまくいかない、なんか違う気がする、という感覚が起点となり、「こうだったらいいのに」という不満は、自分が大事にしたい価値観の裏返しであることが多い。

心のマグマは、語り続け・やりきる理由の根源にもなるところ。

それを言葉にすることで、「ありたい姿」や「めざすゴール」が自然と浮かび上がってくると解説されました。

本質ブレないシートに挑戦。発表は熱量の高い「心のマグマ」が集まった

最後には数名の参加者が自分のワーク内容を発表し、それぞれの「やりたいこと」や裏に潜む「心のマグマ」が共有され、あたたかく前向きな拍手が送られました。

クリエイターらしい独自性を求める悩みから、事業の悩み、次のステージをめざす話など。
本質ブレないシートを通して前田さんが問いを投げかけながら、より深掘りしていく講評も行われました。その一部をご紹介します。

  • 悩み1. 印象に残り思い出してもらえるデザイナーになりたいが、特化したものや強みが上手く見つけられないという悩み。

前田さんは全体の一貫性を高めるために、肩書きやワードを掘り下げ。シンプルなアイデアに落とし込むことで本質を見つけ、さらにブラッシュアップしようとアドバイスされました。

  • 悩み2. 副業からデザインの仕事を本職にしたい、デザイン経験を積みたい

前田さんはワークシート内の「一日の大半を締める仕事がつまらない」というワードに、最も負のオーラを感じると着目。

こうしたときは一番不満を感じている部分を中心に置き、それを解決するプロジェクトにすることを進められました。会場には会社員の方もおられ、発表者の悩みに共感の様子がうかがえました。

  • 悩み3. 作家や伝統工芸を支えるサービス・仕組みを立ち上げたいが、現実的な問題が多くあるという悩み。

前田さんはまず、なぜそうしたサービスを作りたいのか?というきっかけを掘り下げて、具体的なエピソードを引き出されました。

多くの方に協力してもらう必要がある場合、「応援したい」という気持ちをどう感じてもらうかが大切。自身のエピソードや言葉でたくさん語ってほしいと伝えられました。

 

終了時間のギリギリまで講評は行われ、クリエイターのみなさんの悩みや不安のモヤが晴れていく様子がうかがえました。アドバイスをもらい晴れやかな表情の方や、自分以外の発表を聞いてシートヘの書き込みを深める方も。

一人ひとりが自身の課題となる心のマグマに真剣に向き合う、静かな情熱を感じるワークショップとなりました。

ワークショップを終えた熱量のまま本編は終了。今日のお話を聞いて過去の書籍も購入したいという方も多く、書籍販売は列をなす盛況ぶりでした。

ほとんどの方が感想を話したそうな表情で交流会へと移りました。

交流会の様子

同会場内で行われた交流会では、お菓子とジュースを飲みながら名刺交換や交流を楽しめる時間が設けられました。

飲み物を片手に、多くの方が前田さんの前に名刺交換の列を作り、書籍へのサイン会なども行われました。一人ひとりと丁寧にお話をされている姿が印象的でした。

本日のワークの感想や、お互いがどんな仕事をしているクリエイターなのかと話題が弾み、当初の予定時間を延長するほど、にぎやかな時間となりました。


イベントを終えて

短いながらも濃密だった前田さんの登壇。
最後に「10年間のセルフブランディングでやってきたことや、道のりを改めて言語化できる機会を得られたこと。自分らしいブランディングができる人が増えてくれれば嬉しいです」と、前田さんは締めくくられました。

  • 語り続けることで、自分の専門性や印象が育つ
  • やりきることで、誰にも真似できない信頼が積み上がる
  • 心のマグマを持ち、言語化することで、ブレずに進める

この3つが揃ったとき、自分らしさが他者に届き、仕事にもつながっていく。
そして何より、「自分を信じ、夢を叶えていける」ようになるとお話しされました。

そんな前田さんご自身の経験から生まれる言葉の数々に、多くの参加者が真剣なまなざしで耳を傾けていました。

「やりたいことがわからない」
「方向性に迷っている」

そんなセルフブランディングに悩むクリエイターは「本質ブレないシート」で、自分のやりたいことや心のマグマを探しに一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

芯を貫くと、愛される。
やりきったその先には、あなたらしい「愛されるブランド」が待っていることでしょう。

取材・文 : フルカワカナコ 氏

 

本イベントでも使用した、前田さんが考案した「本質ブレないシート」は、『愛されるデザイン』の購入者特典としてダウンロードできるそうです。また、株式会社NASUのECサイトから書籍を購入すると、前田さんの直筆サインが付いてくるとのこと。

購入はこちらから (外部サイトへ移動します)

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