ゲーム好きにとっては憧れの仕事と言えるゲームライターとして活躍しているのが合同会社一筆社の代表、秦亮彦さんだ。いわゆる『ファミコン前世代』にもかかわらず、子どもの頃からゲームに親しんできたと話す秦さんが、今の仕事に携わるようになったきっかけや今後の展開などについて話をうかがった。
合同会社一筆社 秦 亮彦 氏
ゲーム業界に特化したライターとして活躍する秦さんは、ゲーム雑誌『ファミ通』をはじめとする紙媒体やWeb媒体で記事を執筆している。執筆する内容も新ゲームの紹介や国内外のゲームメーカーが発信する情報の紹介、さらにはゲームクリエイターなどへのインタビューと、仕事の幅も広い。そんな秦さんが子どもの頃、両親が営む喫茶店にはテーブル筐体型のゲーム機があった。
「よく『今忙しいからこれで遊んどき』と言われて遊んでいたんです。その後ファミコンが登場して、普通のゲーム好きになっていくんですが(笑)」
大学生になった秦さんは、自分自身はゲーム業界で働けるスキルを習得してこなかったと判断し、卒業後は一般企業に就職してゲームは趣味のひとつに。だが、他の人と違っていたのは、ゲームの紹介や感想を当時登場したばかりのブログに記録がてら書いていたことだ。
「何となく読む人がいたら嬉しいな、と思って書き始めました。時には、自分がわからないことをゲーム制作会社とメールでやり取りし、許可をいただけたらインタビューっぽい記事に仕立ててブログにアップしていたんです」
そうするうちに2010年頃から、ゲームエンジンの進化によって個人でも本格的なPCゲームが作れる時代が到来。インディーゲームというジャンルが確立されるまでになった。
「自分もゲームを作りましたが全然ダメでした(笑)。ただSteamなどでゲームをEC感覚で購入して楽しめるようになると、インディーゲームの開発者に話を聞いてブログ記事にすることが増えてきたんです。その頃ですね、それまで趣味だったゲーム紹介記事やインタビュー、ブログ記事作成で構築した人間関係が仕事のスキルとして通用するのではないか、と気づきはじめたのは」
そんな時に見つけたのが、ゲームメディアのライター募集の記事。応募してライター登録した秦さんは「好きなゲームの感想や開発者のインタビューをブログに書いている人」から、「メディアに記事提供するフリーライター」になり、程なく法人化して本格的にゲームライターとしての道を歩みはじめた。
秦さんの武器は、ブログ記事作成で培ったゲーム会社やクリエイターとの人間的なつながり、そして過去の知見を生かした記事テーマの企画提案力だ。
「ライターの仕事をはじめた当初はインディーゲームが一気に盛りあがった時期で、メディアも掲載したいゲームクリエイターに辿り着く術が少なかった。でも、私は個人ブログ記事を作成していた頃の人脈で、メディア担当者も辿り着けないインディーゲームのクリエイターに直接連絡できたんです。さらに、そうした人脈を生かして『あのゲームが面白いから取材したい!取材アポも取れますよ』と提案していました」
また最近は、秦さんの業界人にはない視点やこれまでに培った知見などを求め、ゲーム会社から相談を受けることも増えており、それが新たな事業の柱になりつつあるという。
「ゲームメーカーから、メディア向けのプレスリリースや広告記事を書いて欲しいという相談が増えてきたんです。小さなゲーム会社は、社長がリリースを書いていることも多い。そこで、どんな内容のリリースをどんなタイミングで出せばメディアに掲載されやすいのか、用意すべき素材なども含めてアドバイスしたり、プレスリリースを作成したり……。そんな広報のサポートやコンサルティング的な仕事が増えつつあります」
また、海外とのビジネスも広がりつつある。
「ODPのスタッフから、自社のゲームを日本で展開したいというインドの会社をクライアントに持つコンサルタントの方を紹介してもらいました。このつながりをきっかけに、海外のゲーム開発会社の広報サポートもお手伝いしたいと考えるようになりました」
ゲームライティングと広報支援を事業の柱とする秦さん。法人化と事務所の立ち上げを同時にしたいと考えていた。
「ODPはATCのITM棟という場所にあるのですが、近くにあるクリエイターサポート施設のセミナーによく参加していたんです。その施設の担当者に相談したらODPを紹介されたのがきっかけです」
当初は『デザイン振興プラザ』という施設名から「デザイナーしか入所できないのでは?」と感じたものの、ライターを含むクリエイター全般が対象と分かり、入所申込することを決めた。だが、大阪市内中央部に存在する多くのコワーキングスペースやシェアオフィスへの入居は検討しなかったのだろうか。
「私の仕事はオンラインでのミーティングやインタビューが多く、コワーキングスペースは向きません。周囲の雑音がインタビュー先の人にとってノイズになりますし、そもそも発売前のゲームについて聞くこともあるので、守秘義務などの問題がクリアできないんですよ」
オンライン中心で進むことが多いゲームライターの仕事。しかしながら、ゲームライターの仕事は想像以上にハードだという。
「世界同時発売のゲームが増え、日本でもローカライズを待たずに発売と同時に楽しめる時代になり、海外のゲームショーをほぼリアルタイムで紹介することも重要な仕事のひとつです。ただ、海外のゲームショー関連の仕事は夜中にオンラインで新作発表を見ながらほぼリアルタイムで記事を作成することになります。昼夜逆転どころか24時間対応できる環境や体力が必要で、本当に大変なんですよ(笑)」
今後の展開としては、広報支援やプレスリリース作成を強化していきたいと考えている。
「日本のゲームを海外に輸出したいと考える日本企業と、先ほどお話ししたインドのゲーム会社のように自社のゲームを日本に広めたいと考える海外のゲーム会社、どちらも広報が重要になります。特に日本展開をめざす海外のゲーム企業の広報をサポートする事業は大きく育てたい。特に台湾などの近隣アジア諸国に注目しています」
インタビューの最後にふと漏らしたひと言が、多くの人が憧れるゲームライターという仕事のハードさと、秦さんの優しい人柄を物語っていた。
「ODPのフロアから見える大阪湾の景色、特に夕焼けがとても美しいんです。時には明石海峡大橋が見えることもあるんですよ。ぜひ一度、あの絶景を見てほしいなぁ……本当に癒やされますから(笑)」
クリエイターズボイス公開日 : 2021年10月6日
取材・文 : 株式会社ショートカプチーノ 中 直照