INCUBATION OFFICE
インキュベーションオフィス入所企業紹介

Jardin des Costumes

Creative Category

ファッション

代表者名

木村 章子

Website

http://jardin-des-costumes.com/

連絡先

「バレエの未来をデザインする」

現在も定期的に舞台に立ち、より踊りやすく美しく見える衣装の研究をしながら、「“クライアント自身も気付いていない魅力”を引き出すオーダーメイド衣装」を提供。
その他、デザインから学べる衣装製作講座Costume Lab.、高身長の女性向けレンタル衣装、環境に配慮した商品開発等を通して、「バレエが日本で継続できる未来」を目指して模索中です。

・バレエ衣装オーダーメイド
・バレエ練習用アイテム、関連商品の企画
・衣装デザイン、商品アイデアの企画・製作
・衣装製作講座 Costume Lab.

CREATOR’S VOICE
クリエイターズボイス-
入所企業インタビュー

幼少の頃にバレエと出会い、現在バレエ歴は43年。今なお舞台に立ちながら、オーダーメイドのバレエ衣装“Jardin des Costumes(ジャルダンデコスチューム)”の企画・デザイン・製作を手掛ける木村章子さん。「バレエの未来をデザインする」をコンセプトに、バレエ経験者だからこそ生み出せるクリエイティブを中心に、独自の商品開発や衣装製作講座の開設など、これまでの経験を最大限に活かした多彩な事業を展開する。なぜ自ら衣装をつくりはじめたのか、どんな未来を描いて事業に取り組んでいるのか、すべての原動力となっている「夢」についてお聞きした。

バレエ経験者だからこそ創り出せる真に価値あるクリエイションを

Jardin des Costumes 木村 章子 氏

舞台の世界観を表しパフォーマンスを引き出すバレエ衣装という存在

木村さんが初めてバレエと出会ったのは幼稚園の時。その後、8歳から本格的にバレエ教室に通うようになり、社会人になってからもバレエを続けてきた。独学で衣装づくりを始めたのは26歳の頃。会社の業務がどんどん忙しくなる中で何とかバレエを続けようと、より自由が効くチケット制のスタジオに移籍。そこでは発表会の衣装は自分で用意しなければならず、急遽、友人の衣装を借りた時に、自分の体に合った衣装の重要性を改めて痛感したという。

「バレエの衣装は演目に沿ったデザインであることはもちろん、より美しく踊れるよう体に密着し、それでいて可動域を邪魔しないものでなければなりません。繊細でフワフワした衣装は一見軽やかに見えますが、装飾を施したコルセットのような身頃とスカート部分には何段にもチュールが重なり、見た目以上の重量があるのです。そんな衣装でジャンプやターンなど激しい動きをするわけですから、体にフィットしていなれば重心がブレたり滑らかな動きができなかったりと、パフォーマンスに影響を与えてしまうのです」

子どもの頃からさまざまな演目を踊り、衣装づくりに関しても間近で見てきた木村さん。試行錯誤しながら独学で衣装をつくるようになり、10年経つ頃には周囲から「つくって欲しい」という依頼の声がかかるように。そこで、木村さんは服飾専門学校への入学を決意。

「他人の衣装をつくるのなら独学の技術では限界があります。そこで、一から基本を学んでみようと一念発起。パターンの引き方や縫製テクニックなど、基礎的なスキルを身に付けていきました」

商品企画で培ったノウハウをプラスし好きなコトを仕事に

会社員として働きながら専門学校で洋裁を学び、定期的にバレエの舞台に立つという多忙ながらも充実した日々を送る。中でも、大手通販会社の雑貨部門で企画職に就いていた木村さんは、在職中、マーケットリサーチや新商品の企画立案、SNS運用など、幅広い業務経験を通して「ものづくりや事業展開に関する、いろいろな知識やノウハウを勉強することができた」と話す。それと同時に、その道のプロから衣装製作の技術を学ぶ人気講座を受講するチャンスをつかみ、製作スキルの精度をブラッシュアップ。作品集のつもりで立ち上げた自作のバレエ衣装を掲載したwebサイトは、着実にプレビュー数を増加させていった。

会社員として社会で活躍する時間と、好きな衣装づくりに没頭する時間。そのふたつで程よくバランスを保っていた木村さんの生活を、大きく変えるきっかけとなったのが2020年の新型コロナウィルスの感染拡大だった。会社業務のほとんどが在宅になるなど生活が一変し、「仕事に対する限界と同時に、好きな衣装づくりを本業として自分の力を試してみたい」という気持ちが芽生えていったという。

「そんな時、大阪産業創造館(以下、産創館)が主催する起業プログラム【創業チャレンジゼミ】を受講したことが、自分にとって大きな自信になりましたね。事業計画の立て方や収支計画の重要性を学べたことで、より具体的に起業後の自分をイメージできるようになりました」

衣装づくりというアーティスティックな活動だけではなくしっかりとした事業の柱が必要と考え、2021年よりバレエ衣装製作の技術を教える講座「Costume Lab」をスタート。この頃には国内外のバレエコンクール上位入賞者やヨーロッパ国立バレエ団プリンシパルの衣装も手掛けるようになり、一歩ずつ起業へと近づいていった。

そして2022年、木村さんの人生を大きく動かすチャンスがやってくる。それが、国内有数の大手服飾専門学校での講師の依頼だ。それを、独立のための好機と捉え、勤め先の退職を決意。大きな一歩を踏み出した。

新たな人とのつながりが、一人だった世界を大きく広げていく

「自分の好きな衣装づくりを事業にしたい」という想いを叶えた木村さん。自身のブランド“Jardin des Costumes”のWEBサイト立ち上げやSNSでの作品紹介など、世界に向けた情報発信を行いながら、顧客や講座生徒の獲得に力を入れていった。

「安定した収益を得るためには、とにかく仕事を増やしていく必要がある」と考えた木村さんは、20246月、産創館で紹介されたODPへの入所を決める。

ODPではさまざまな施設を利用できるほか、他分野のクリエイターの方々と情報交換を行うことができるので、新しい知識や事業のアイデアを広げることができる点に魅力を感じました。何より、会社を辞めて一人でものづくりに打ち込んでいると、社会から断絶されたような不安感を少なからず感じていたのです。ODPに入所することで人とのつながりが広がり、事務局の方々の温かなサポートもあるので、精神的にとても心強いですね」

意欲的に活動の幅を広げていく木村さんに、さらに、もう一つの大きなチャンスが巡ってくる。若手デザイナーの登竜門として知られるバンクーバー ファッション ウィーク(VFW)から届いた1本のメールだ。“Jardin des Costumes”のWEBサイトを見たというコーディネーターから、最新コレクションを発表するファッションイベントに参加してみないかという打診で、「パリで開催されるショーにも参加できる」点に興味を惹かれたのだと話す。

「実は、バレエ衣装づくりを始めてから私には大きな目標があるんです。いつか、大好きなパリ・オペラ座のダンサーと一緒に仕事をしたいということ。パリコレクションなら、オペラ座の関係者やダンサーたちの目に触れる機会もあるでしょうし、昔からの夢を叶える大きな足がかりになると考え、挑戦してみたいと思いました」

そして、20249月にパリでオリジナルのバレエ衣装を発表した木村さん。磨き続けた縫製技術はもちろん、これまでのバレエ経験で得た感性と企画職で培ってきた発想・アイデア力を最大限に発揮し、世界中の芸術家をはじめファッショニスタたちに、“Jardin des Costumes”の魅力を発信した。

夢や目標があるからこそ、チャンスをつかんで前進できる

そんな木村さんには、衣装づくりを始めた当初から目指し続けていることがあるという。それが、「衣装づくりを通して日本のバレエ界のレベルアップに貢献する」というもの。

「今やネット上にはさまざまな自作の衣装が販売されていますが、残念ながらすべてが品質の良いものとは言えず、中には踊りの本質を理解していないものも少なくありません。どうせつくるならちゃんとしたものをつくりたいし、衣装を着るダンサーが気持ちよく舞台に立てるものにしたい。だからこそ、“Jardin des Costumes”では品質にこだわり、デザインの段階からアイデアを提案し、ダンサーと一緒により良い舞台をつくりあげていきたいと思っているんです」

衣装製作の講座「Costume Lab.」でも、ただ縫製ができる人を育てたいわけではない。デザイン論を含む座学をカリキュラムに組み込んでいるのは、企画段階から価値を生み出す本当の創造者を育成したいという想いからだという。

そうした本業への取り組みに加え、ODPで人のつながりを得た木村さんは新たな企画にも挑戦する。現在計画中の、幼少期の頃に暮らしていた町と協力して開催する小中学生を対象にした古着リメイクのファッションショーもそのひとつ。さまざまなクリエイターたちや事務局スタッフのアドバイスを受けながら、つねに新しいアイデアや事業のヒントを模索している。

「そうしたすべての活動の根底にあるのは、バレエ界のレベルアップに貢献したい、いつかパリ・オペラ座のダンサーとの仕事を手掛けたいという想いであり目標です。自分の中に確かなビジョンがあるからこれまで頑張ってこれたし、チャンスに出会った時、しっかりとつかみ取ることができたのだと思いますね」

「バレエの未来をデザインする」という、“Jardin des Costumes>”のコンセプト。唯一無二のものづくりを根幹にしながら、新たな可能性を切り拓いている。

クリエイターズボイス公開日 : 2025年7月30日

取材・文 : 山下満子 氏