塩見 眞史
【略歴】
1984年 電気部品メーカーに入社、コンデンサーの生産設備などの開発に携
1987年 喫茶店雇われ店主として経営を任される
1989年 大手電機メーカーに入社、半導体生産設備の保守、改善、改造など
1999年 同研究所を経て企画部に異動、マーケティング、商品開発、営業支
2014年 同車載液晶部門 企画部に異動
2016年 大手電機メーカーを退社、商品開発のコンサルタント業として起業
2018年 機構系のデザイナー、試作屋として企画、デザイン、設計からモノ
ものづくりは大きく外側デザインの「意匠」と内部構造の「機構」にわかれるという。今回お話をうかがったエム・エス研究所の塩見眞史さんは、内部構造を設計する「機構デザイン」を中心に、製品の企画やデモ機試作、商品開発のコンサルティングなどを手掛けている。喫茶店の店長から大手電機メーカーに転職し、その後独立という希有なキャリアを振り返りつつ、独立の経緯や今後の展開などをうかがった。
エム・エス研究所 塩見 眞史 氏
エム・エス研究所が手掛ける「機構デザイン」の多くは、新製品や独自技術に直結しているため守秘義務の範囲内となる。しかもたいていの場合、機構は一般の人から見えない内側にあるため、「どんな仕事をしているんですか?」という質問に答えるのもひと苦労なのだとか。
「横文字で言うとプロダクトデザインやメカニカルデザインと呼ばれる仕事です。例えば、外側の筐体がデザインできて、それを機械的に動かしたいと考えた時に必要になるのが機構デザインです。クライアントやデザイナーが求める動きを実現する方法を考え、実際にその動きを実現するのが仕事になりますね」
塩見さんは小型製品の場合は開発設計から試作までをワンストップで対応しているという。
「通信機器や家電、おもちゃまで、ご依頼いただいてる業界は多岐に渡ります。ご依頼の多くが試作品やデモ機の製作。『このデザイン画のおもちゃをこう動くようにしたい』というご要望をもとに、実際に動く機構を考えるのが私の仕事です。時には、機構的な面から工場の生産設備全体の改善方法をご提案することもあります」
一般の人の目に触れることが少ない機構デザインに取り組む塩見さん。もともとは部品メーカーで生産設備開発に携わっていた。
「主に完成した製品の良品か不良品かを判別する検査機を設計していました。ただ、親が商売をしていたので、私自身も『いつか独立して自分で商売をしたい』という想いを持っていました」
部品メーカーで働きはじめて3年になろうとする頃、知人から「喫茶店を開くので店長をやらないか」と誘われた。
「部品メーカーの仕事とは全く畑違いですが、当時は独立したい想いが強くて。喫茶店じゃなくておもちゃ屋とか本屋でも誘いに乗っていたかもしれません(笑)」
包丁の握り方やコーヒーの淹れ方から教えてもらうなど、初めての経験だらけの喫茶店店長の仕事だったが、すぐ人気店となり、気がつけば地域一番の喫茶店に。だが、2年ほどで喫茶店の店長職を辞して大手電機メーカーに転職し、前々職時代の経験を買われて半導体の生産設備を開発する部署に配属された。
「当時、半導体が求められたのはゲーム機とか電卓が多かった。技術革新が早くて半導体生産装置の仕事は忙しかったですね」
10年ほど半導体生産装置関連の仕事に取り組み、自ら手を挙げて企画部に異動。携帯電話にカメラを搭載したり、携帯ゲーム機向けの液晶画面など、マイコンを活用した商品企画などに取り組んだ。
「デバイス系が中心でしたが、どんな仕事をするかも自由、出張も自由と、社内でも比較的自由な立ち位置で仕事をさせてもらえました。独立しているのと同様の気持ちで仕事に取り組めたのが良かったのか、この部署も10年以上いました」
会社員でも、独立したのと同じように自己裁量で仕事を進められて仕事自体も楽しい、そんな塩見さんが独立を再び考えはじめたきっかけは会社の業績不振だった。
「業績不振の会社を立て直したいという上司から連絡があり、ICのグループから液晶のグループに異動することになり、車載液晶関連の企画を担当しました。でも、自動車に液晶を搭載するのは、主に運転席周辺ぐらい。しかも私が得意とする機械的な技術をあまり必要とせず、仕事が楽しいと思えなくなっていきました」
会社の業績悪化はさらに進み、ついに退職、独立を決意した塩見さん。問題は『どんな事業で独立するか』だった。
「最初は料理学校に入学し、喫茶店への再挑戦も考えました。でも、喫茶店ならもっと高齢になってから始めることもできます。そこで、自分が好きな機構デザインをはじめとした機械系の仕事をしようと決めました」
すると、大手電機メーカーを退職することを聞きつけた大手玩具メーカーの役員から声が掛かり、外部顧問という形で玩具の機構デザインなどをサポートすることに。外部顧問の期間は約1年半。その間、顧問としての仕事の合間に前職時代の知人や展示会などを巡り、徐々に機構デザインや試作の仕事を獲得。現在も着実に仕事を増やし続けている。
機構デザインの業務は社内技術者が担当することが多い上、塩見さんのような協力会社としてメカニカルな機構デザインを請け負える企業や人材は少ないそう。
「企画からデザイン、試作に至るまで一気通貫で請け負ったり、『意匠』と『機構』の両方を理解した上で外部パートナーとして企業のものづくりをサポートできる人材が少ないようです。ややこしくて面倒な機構でも動くところまでしっかり作る、そんな機構デザイナーでありたいと考えています」
最初は知人の紹介で存在を知って入所を決めたODPだが、少しずつ広がったネットワークがビジネスに繋がりはじめている。
「機構デザインという仕事を知らないクリエイターの人たちとコミュニケーションするのはとても新鮮で楽しいです。お互いを知る中で、ODPのデザイナーを知り合いの会社に紹介したり、逆にODPの仲間からプロダクトデザインの依頼を受けたりすることが増えてきました。人と人のつながりが広がっていくのを楽しんでいます(笑)」
今後の展開をうかがうと、自社製品のコンパクト塗装ブース『MOZAC(モザック)』の発売を予定しているという。
「プラモデル製作が趣味なのですが、自分が欲しいステンレス製の塗装ブースがなくて…。だったら自分で作ろう、さらには売ってみたら面白いんじゃないかと考えたんです。すでにマーケティング調査も済ませ、2023年の発売をめざして準備中です」
エム・エス研究所は、企画段階から外観と機構のデザイン、試作、そして量産化の段取りまで、ものづくりをワンストップ対応できる会社をめざしたい、と塩見さん。
「私の理想とするものづくりを実現しているのが、アメリカにあるデザインコンサルティング会社『IDEO』という会社。この会社をめざすことが、少しでも多くの人に機構デザインという仕事の存在や中身を知ってもらうことにつながると考えています」
ODP入所企業の株式会社海岸線の「混雑・三密回避ソリューション」サービスで使われるセンサー機器の改良を担当。
それまでのものより、外見が洗練され、内部設計も、メンテナンスがしやすく、かつ故障しにくい設計になったと高い評価を受けた。
クリエイターズボイス公開日 : 2022年12月27日
取材・文 : 株式会社ショートカプチーノ 中 直照