「誰でも、どこでも、簡単に…」
株式会社 海岸線は、人が介入する必要の無い作業を出来る限り自動化させ、より高効率に組織運営してもらうことを念頭にシステム開発を行っています。
Webやシステムの知識を独学で身につけ、ついにはIoTプロダクトを自社開発で生み出した株式会社海岸線の代表、上田太久治さん。IT業界とはまったく関係ない旅行業界などで働いていたという異色の経歴の持ち主だ。現在は自社開発のIoT製品『ラッシュリサーチ』の普及に東奔西走の日々だという。今回は、起業のきっかけや『ラッシュリサーチ』開発秘話、そして今後の展開などについて話をうかがった。
株式会社海岸線 代表取締役 上田 太久治 氏
Webサイト制作やシステム、IoT関連などの事業に取り組む上田さんは、ITに関する専門知識を学校で学んだ経験はない。
「学生時代は、不動産業界で働くつもりで不動産関係の資格を取得したりしました。しかし、バブル崩壊などで、多彩な技術や知識を身につけないとダメだと考えるようになって、IT関連の勉強も始めたんです。独学だったので最初は趣味の延長のような感じでしたが、仕事でWebやシステムの担当をするうちに本職はだしになりました。『ラッシュリサーチ』を展開するIoT関連事業も、自社サービスの差別化がポイントになると考え、独学で取り組みを始めました」
就職後は、マーケティングリサーチの会社、広告代理店、旅行代理店など、さまざまな業界や会社で働いた上田さん。ただ、若い頃から変わらない想いがひとつだけあった。
「起業したいという想いは学生時代からずっと胸の中にありました。どんな仕事で起業するかは決めていません、いつか起業しようと。さまざまな業種に転職を重ねたのも、心の奥底では多様な経験が起業する時に生きると思っていたのかもしれませんね(笑)」
起業直前は小さな旅行代理店で働いていたが、とにかくハードな仕事だったという。
「小さな会社でしたから何でもやるのが当たり前。会社のWebサイト制作や大学の部活の合宿の営業や学校の修学旅行を受注するための営業を担当することもありました。目の前の仕事に忙殺されていた頃に、ふと起業したい想いが湧きあがってきて。『もう40歳も超えているし、起業するなら今しかない』って(笑)」
そして旅行代理店を退社し、2017年に株式会社海岸線を設立。この社名は南港の海が由来なのだとか。
「起業するまで、よくATCに来ていたんですよ。ボーッと海を見ていると気持ち良くて。それで社名を『海岸線』にしようと決めたんです」
ODPのインキュベーション施設に入所したきっかけは、もともとODPの近くにオフィスを構えていたので存在を知っていたことに加え、もうひとつ理由があった、と上田さん。
「当時は、自社開発製品『ラッシュリサーチ』の完成まであと一歩の状況でした。『ラッシュリサーチ』のビジネス展開を進めていくにあたって、多くの人に意見やアドバイスをいただきたいですし、デザインや動画プロモーションといったクリエイティブな部分をサポートしてもらえる人とつながりたいという想いがありました」
実際にODPに入所してみると、そのもくろみは見事に的中した。
「自分もWeb制作やシステム開発のクリエイターとして、映像のクリエイターなどと協力しあえる関係を築きつつあります。やはり近い距離に専門家がいると本当に心強い。仕事に生かせる人間関係、仲間を作れているところが、ODPに入所して一番嬉しいところですね」
さらに人のつながりができたことで、別のメリットも生まれているという。
「情報の量と質が格段にアップしました。もちろん自分でもWebや新聞で情報収集していますが、立場が似ているODPの仲間からの情報は、私も知りたかった情報も多い。どんな補助金が出るか、どの業界が忙しくしているか……。ビジネスに生かせると感じた情報は、ここで知り合った仲間と雑談している時の情報が一番早くて多いかも(笑)」
自社開発商品『ラッシュリサーチ』は、施設の出入口にセンサーを設置して出入りする人をセンサーでカウントし、施設内の混雑状況をリアルタイムでデジタルサイネージやWebサイト上に表示するIoTシステムだ。
「レーザーセンサーを利用し、出る人と入る人を区別して認識しながらカウントすることで、混雑状況を瞬時に把握し、デジタルサイネージなどへの表示が可能です。体客の予約などがある場合はあらかじめスタッフが手動混雑表示にできるので、お客さまの不満を最小限に抑えられます。データと人の感覚を融合できるIoTシステムです」
IoTに関しても独学で知識を身につけ、『ラッシュリサーチ』の試作機も上田さん自身が日本橋で部品を買い集めて製作したという。
「初めて『ラッシュリサーチ』を出展した展示会が縁となり、宮崎にあるシーガイアさまから商品紹介の機会をいただきました。2カ所あるレストランの混雑を回避するために、人流を的確にコントロールできる仕組みを探しておられたんです。この仕組みに『ラッシュリサーチ』がぴったりで、開発協力から実際のシステム導入までお世話になりました」
その後も福山市立動物園への導入が決まるなど、着実に設置場所を増やしつつある『ラッシュリサーチ』。
「コロナ禍に見舞われている集客施設にとって、『混雑回避』は重要なキーワード。精度と使い勝手をさらに高めていくことで、より多くの施設への導入をめざしていきます」
これからの海岸線の展開についてたずねると、『ラッシュリサーチ』の導入拡大と、宿泊業界のデジタル化推進サポートというふたつの目標があるという。
「このラッシュリサーチを開発したきっかけも、旅行が好きで「くつろぎに来た旅館で混雑は避けたい…」という想いからでした。その想いを実現できる『ラッシュリサーチ』をどんどん普及させていきます。加えて、ホテルや旅館様に話をうかがうと、アナログな手法で行う業務が想像以上に多いことに驚かされます。スピード感を持ってシンプルなシステムを提供し、ホテル・旅館様のデジタル化推進に貢献したいですね」
今後は、お客さまへの利便性向上だけではなく、働く人たちがより効率的に働ける環境づくりにつながるシステムやIoTを提供したいと考え、その実現のために成長し続けたいと語る。
「将来的には「混雑回避ならラッシュリサーチ!」が当たり前になり、誰もが知るようなサービスに育てたいと考えています」
旅館のサイネージに表示される浴場の混雑状況機材はコンパクトなサイズ。出入口にセットされる。
クリエイターズボイス公開日 : 2021年5月12日
取材・文 : 株式会社ショートカプチーノ 中 直照